仕事

なぜ日本人は残業をやめられないのか。希望のための『残業学』

皆さんは残業に対してどのような考えを持っていますか?

子どもがいるので残業はしたくない

残業をするなと言われて経済的に困っている

残業するなんて仕事ができない人なんじゃないの

残業してこそ成長するんだ

10人いれば10人の残業に対する思いがあるのではないでしょうか。

現在、日本では国をあげて長時間労働削減を目指しています。喜ぶ人がいる一方で、「仕事は減らないのに残業するなと言われても」とか「残業代が減って生活が苦しい」「部下に残業させられないので残業代のつかない管理職が残業することになる」といった問題が発生しています。

今回ご紹介する『残業学』は、以下の3つを探究する学際的な研究です。

  1. 残業がどこでどのくらい起こっているか(Whatの探究)
  2. 残業が起こってしまうメカニズムと功罪(Whyの探究)
  3. 残業をいかに改善することができるのか(Howの探究)

前述したとおり、残業をとりまく課題や意見は様々です。しかし本書の特徴は

  1. データとエビデンスに基づく分析
  2. 具体的な解決策の提案
  3. わかりやすい講義形式

となっており、エビデンス(証拠)に基づいた分析の結果、具体的な解決策が提案されています。個人的な体験談に基づく意見は学問とは言えないですものね。

したがって書いてあることの納得度が非常に高いです。モヤモヤしていたことがスーッと腹落ちする、という言い方がしっくりきます。

残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)

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『残業学』の著者は意外にも人材開発の研究者

本書の著者の中原淳さんは、立教大学経営学部の教授で、人材開発・組織開発の研究者です。ワーキングマザーの奥様と、小学生と保育園児の2人のお子さんを育てるワーキングファザーでもあります。

本書はパーソル研究所との共同研究をしたためた書籍となります。

難しい学問を一般人にもわかる言葉でやさしく表現できるのが中原先生のすごいところです。著書も多数。女性活躍推進に必要な人材育成のススメも書かれています。そのうちご紹介します。

女性の視点で見直す人材育成――だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる

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高度経済成長期に比べて残業は減っているのか?

長時間労働の是正はだいぶ長いこと言われてきていますが、この20年間の労働者の総労働時間はフルタイムもパートタイムもさほど減少していません。これが実態です。


(図の出典:パーソル研究所 残業習慣はなぜ生まれ、なぜ無くすべきなのか――残業のメリットとデメリット

なぜ日本の総労働時間は減らないのか。本書では、それにはふたつの理由があるといいます。

ひとつめの理由は法規制の実効性の乏しさからくる「時間の無限性」です。

労働基準法において法定労働時間は1日8時間、週に40時間と定められていますが、第36条により、協定を結びさえすれば、法廷時間外労働と休日労働は認められています。しかも、繁忙期などには「特別条項付の36協定届」を届ければ、残業時間の基準を超えて働かせられるため、実質、青天井で残業ができる仕組みになっています。

ふたつめの理由は「仕事の無限性」です。日本の職場は外資系企業にあるような「Job Description(職務記述書)」がありません。

日本の職場は「どこまでが誰の仕事か」という区切りがつけにくいことで知られています。(中略)自分に与えられた仕事が終わっても、他の人の仕事を手伝う、若手のフォローアップを行う、といったプラスアルファが求められます

これら2つの無限が重なり合って、負のシナジーを生み出し、長時間労働が生まれているのです。

なぜ日本で残業文化が生まれたのか

ではなぜ、日本でそのような2つの無限が生まれ、残業文化が根付いたのでしょうか。

戦後の日本は急激な人口増による「人口ボーナス(総人口に占める働く人の割合が上昇し、経済成長が促進されること)」の時代。(中略)「残業した分だけものが作れ、売れる」状況だったので、企業にとって残業のメリットは大きかったのです。

なるほど。だから「男は外で長時間働き、女は家を守る」スタイルが戦後に確立してしまったのですね。

残業が恒常的に多い人は要注意!「残業麻痺」

長時間労働をしているにもかかわらず、エネルギッシュでギラギラしている人、いませんか。そういう人は「残業麻痺」している、と本書は指摘します。

「超・長時間労働」によって「健康」や「持続可能な働き方」へのリスクが高まっているのにもかかわらず、一方で「幸福感」が増してしまい残業を続けてしまう人がいる

「本人が幸せならいいなじゃないの」と思う方もいるかもしれません。しかし長時間労働は確実に体と心の健康をむしばんでいき、ある日突然バーンアウトや突然死するリスクがあります。長時間労働は健康のために絶対に良くないことなのです。

長時間労働による「達成感」は「成長」ではない

残業削減を訴えると、「やはり大量に仕事をこなさないと成長できない」という批判はつきものです。しかしそれは本当に「成長」なのでしょうか。残業することで「成長」が促進するのでしょうか。本書ではそこも突っ込んで考えていきます。

「大人の学び」に欠かせない要素が、次の「3つの原理」です。

  1. 背伸びの原理
    現在の自分の力では少し難しい、能力が伸びる仕事をすること
  2. 振り返りの原理
    過去の行動を振り返り、意味付けた上で、未来に何をするべきかを、自分の言葉で語れるようになること
  3. つながりの原理
    信頼の置ける他社からのコメントやフィードバックなどを得て、周りとの関わりの中で学んでいくこと

この学びの原理については『働く大人のための「学び」の教科書』に詳しく書かれています。

働く大人のための「学び」の教科書

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そして残業時間が長くなればなるほど、これらの原理が果たされない環境になっていきます。

長時間の残業によって「振り返りの原理」「つながりの原理」が機能しなくなることがわかります。

そりゃそうですよね。残業しまくっていたら振り返る余裕なんて皆無ですし、フィードバックをしたりもらったりする時間もなくなるのです。残業したから成長したというのは幻想だったわけです。

健康でいたいなら、成長したいなら残業をやめる

非常にシンプルな結論です。私たちは自分のためにも家族のためにも、健康でいる必要があります。そして人間として社会人として成長していく必要があります。

健康でいたいなら、成長したいなら、残業をやめる。それが本書の結論です。そしてどうやってやめていけばいいのかは・・・本書をお読みください。

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